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かくれ脱水コラム

コラム
更新日:2016/4/18
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マラソンレースを楽しく完走するための予防と対策

ランナー必読!マラソンレースを楽しく完走するための予防と対策

秋冬のマラソンレースを安全に楽しく、より速く完走するために、すぐに役立つ対談です。お役立てください。

近年のジョギングブームは、もはや成人のライフスタイルのひとつとして定着した感があります。それにともない、市民ランナーが出場可能なマラソン大会が増え、各地でレースを目指すランナーも急増してきました。かくれ脱水JOURNALでは、秋冬の本格的なマラソンシーズンに、日本を代表するトップランナーであり、駿河台大学駅伝部の指導者としても活躍する徳本一善選手と、日医ジョガーズの中村集先生との対談を企画。すべてのランナーが走る前に必読。レースにも役立つ内容がつまったものとなりました。

中村 集×徳本一善

秋冬のマラソンにも脱水対策が重要!マラソンのカラダへのリスクを知る。

マラソンのカラダへのリスクについて教えて下さい

中村

中村 マラソンは有酸素運動であり健康に良いとされていますが、レースとなるとさまざまなリスクはあります。実際、マラソンがブームとなるにつれ、レース中、レース後に倒れたり、搬送されるランナーの数は増えています。確かにマラソンはカラダに良い理由は多々ありますが、心臓や肺をはじめ、いろいろな臓器に大きな負担がかかるのです。具体的には、カラダの水分や塩分の不足から脱水症(夏場は熱中症にもつながる)、過度の負荷がかかるために膝や腰、かかとなどの関節、筋肉・じん帯の疾患、そして心臓への負担からの不整脈や心疾患、寒い季節にはカラダが冷えて起こることの多い低体温症などがあげられます。

とくに脱水症は、炎天下でのレースでは多くのランナーがなってしまいますし、秋冬のレースでも起きるものです。ランニング時には体温が上昇し、カラダは汗をかくことで気化熱をうばって上がった体温を元に戻そうと調整するのですが、汗をかいて失われた水分・電解質を適切に補給しないと脱水症に陥ります。気温や個人差はありますが、筋肉の痙攣、疲労や倦怠感、頭痛、めまい、吐き気などが現れ、重度の脱水症となれば意識を失い、場合によっては死に至ることもあります。

徳本選手は、脱水リスクについて、どのような知識や経験をお持ちですか?

徳本

徳本 走ることは、脱水へのリスクが高いということは強く自覚しています。ただ注意していても、給水量が足りない学生が病院に搬送されたことがありました。彼らには共通の原因があるんです。練習中に給水量が少ないことと、その朝に食事などから水分を摂っていないことでした。 普段から、夜寝る前と朝起きたときはしっかり水分を摂れと指導するのです。しかし、学生は寝坊したり、時間がなかったりで、水分を充分に摂らないで朝練に出かけてしまうことがあるんですね。少し元気がない感じがする学生に声をかけても「大丈夫です」という。怖いのは、「大丈夫」と答えたときから1時間ほど経過してから筋硬直のようになったりするんです。

では、リスク回避の予防法は?

練習の合間に経口補水液を摂取する徳本選手
練習の合間に経口補水液を摂取する徳本選手

徳本 よく水を飲んでおくこと。学生には、練習前やレース前には経口補水液を飲むことも勧めています。

中村 走る前に糖質の少なく吸収のいい経口補水液を摂るのはいいですね。水より胃に残りにくいので、胃がちゃぷちゃぷしないし。

徳本 僕は、レース前の夜に500mlのペットボトルを2回に分けて飲みます。レース当日の朝も経口補水液を飲みますね。実は学生時代から脱水症状になったことは一回もないんです。当時は、スポーツドリンクを糖分が多いので水で2倍程度に薄めてでしたが、事前に飲んでおくことが良かったと思っているんです。

中村 ウォーターローディングといってね、理にかなっていますよ。経口補水液だとカラダに吸収しやすく排泄しにくい。カフェインも入ってないし。250mlを夜2回に分けて摂ったうえで朝飲むのは200〜250mlくらいかな。

脱水予防については、レース前、レース中、レース後の給水プランを立てるといいと思います。事前にレーススピードで1時間走をおこない、前後の体重を測定してその体重差すなわち体重減少量が1時間あたりの失われる水分量の目安になります。筋肉・じん帯・関節の損傷リスクを減らすためには走る以外に筋力トレーニングなどをおこなって強化すること。それに病院で事前に循環器系の専門医のチェックを受けておくこともお勧めします。

■レース中の給水について

基本的には、トレーニング中からレース中と同じように摂ること。あまり汗をかかないような短時間(1時間程度)走であれば普通の水だけでもよい。ハーフ以上の距離を走ったり、2時間以上かけて走る場合は電解質と少量の糖分が含まれた飲料を摂ること。経口補水液がカラダへの吸収も良いしお勧め。

摂取方法は、基本的には事前に計測した自分の1時間あたりの脱水量を目安にすること。走っているときは、1時間あたり400〜800mlの水分が目安。体型やランナーの走りの質などの個人差や環境的な条件によって若干異なるが、適量を考えて給水プランを作る。

給水プラン
■適切な水分補給について 中村 集

マラソン大会の現場で、かならずといっていいほど「脱水にならないように十分水分を摂ってください」とアナウンスされます。確かに、炎天下や気温が上がった状態だけでなく、マラソンは脱水を引き起こしやすいですが、中には水分の摂り過ぎで低ナトリウム血症(いわゆる水中毒)になるランナーも多くみられ,重傷者が倒れてドクターブースへ運ばれてきます。これは悪化すると死に至ることもあります。厄介なことに低ナトリウム血症は、症状が脱水症と似ているために、気分が悪い、吐き気、おう吐、顔面蒼白などがあると、さらに水分を摂ってしまうという悪循環に陥ることが散見されます。

ランニング学会では、いま「のどの渇き」に応じた水分補給を推奨しています。どのくらい飲めばいいか? 数値で判断するより、そのときの「のどの渇き」やコンディションによって判断するということです。それでも、目安は必要だと考え、一応数値化して給水量の目安にしています。

目的に合ったバランス食とウェア + シューズ活用

レース事前の食事について教えてください

中村

中村 一般的なことですが、普段からの食事は、いろいろな食材をバランスよく摂ることが基本。とくに女性は、走ることで貧血になりやすいので鉄分の多い食材を意識的に多く摂りましょう。便秘気味の方は宿便があると走りにくいですし、大腸がんの原因にもなりかねませんので、繊維質の多い食材を多く摂ってほしいのですが、レース前はガスを発生させ腹痛の原因となるので大量には摂らないこと。

徳本 よく30kmの壁といわれるのが糖質エネルギーの使い方です。カラダの中では糖質と脂質が同時に使われているんですが、30kmあたりで、糖質エネルギーが枯渇するんです。だから、走っていてエネルギー切れになるときは、糖分を含むスポーツ飲料を飲みますね。

本気のランナーなら、いかに脂質エネルギーを使って走れる割合を高めていくかというのが重要。その為に、普段から糖質を制限した食事をすることも必要です。いわばカラダのエネルギー燃焼を脂質回路にしていく。糖質エネルギーを残しておけるカラダにしていくわけですね。

糖質エネルギーを残しておけるカラダ

中村 なるべく脂質だけで走れるように普段から食事を工夫することはいいでしょう。ただ、辛いからね、市民ランナーなら楽しくするためのことを優先したほうがいいかもしれません(笑)。タンパク質を摂ることは重要。筋肉量や血液量も増やしてくれますし。もっとも、医者としては、腎臓の悪い方はタンパク質の摂り過ぎはよくありません。無理なくカラダと相談しながらにして欲しいと思います。

そして、レース3日前からは,糖質中心の食事に切り替え、脂質を控えめにしたカーボローディングでカラダにエネルギーを蓄えることも覚えておくといいですね。

ウェアやシューズなどの選び方について

徳本

中村 最近は、吸湿・速乾性のあるウェアにいいものが出ています。秋冬とはいえ走っていると体温が上がるし、夕方になると急に気温が下がることなどもあります。たとえば、アームウォーマーやレッグウォーマーなど、ある程度、調節の利くウェアを準備しましょう。天候によっては、ウェストポーチなどを使って、雨用のウェアを携行することもお勧めします。

徳本  僕も、アームウォーマーやレッグウォーマーは、雨が降ったりするとしますね。保温対策をしないと筋肉がつることなどもありますし。

中村 レッグウォーマーはいいですよ。脚の稼働域を制限しないし、いろいろな素材やデザインのものが出ています。

徳本 シューズは、フラットかフォアフットといわれる脚の指の付け根あたりで着地する走り方をするトップランナーは、地面からの反発が欲しいのでソールが薄いものを選ぶようです。かかとから着地するヒールストライクという走り方をする一般ランナーの方は、膝や関節に負荷をかけないソールが厚めのシューズを選んだほうがいいでしょう。完走率が高くなります。

アームウォーマーとレッグウォーマー(提供:株式会社ゴールドウイン)

アームウォーマーとレッグウォーマー(提供:株式会社ゴールドウイン)

疲労困憊でゴールした後は、どのような注意が必要でしょうか?

中村 ゴール後も、より有効な水分補給として経口補水液が良いですが、 レースでダメージを受けた筋肉を修復するために、できるだけ早いタイミング(できれば30分以内)にアミノ酸(BCAAを含んだもの)を摂ると筋肉痛が少なくて済みます。また、糖質、乳タンパク質(ヨーグルト、バナナと牛乳など)は、筋肉量や血液量を増やすといわれていますからお勧めします。

*BCAAは、Branched Chain Amino Acidsの頭文字。分岐鎖(ぶんきさ)アミノ酸と呼ばれ、必須アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシンのこと。

■ゴール時の水分ケア

脱水への事前の対処がマラソン完走を生む

マラソンレースの楽しみ方、参加する際の心得などをお聞かせください

中村 まったく走っていない人は、いきなり走らずにウォーキングから。週に3回30〜40分程度の早歩きからはじめて、1時間くらいまで増やしていきましょう。もちろん、いきなりフルマラソンの大会にエントリーするのは避けて、5〜10kmの部に出て、次にハーフ。ここまではだいたい楽しくやれます(笑)。そして、ハーフで自信がついたらフルに挑戦して欲しい。フルを完走するためには、1時間程度のランニングを週に3回、数ヶ月のトレーニング期間は必要だと思います。

徳本 走ることに徐々になれていくことが重要ですね。

中村 楽しみ方は人それぞれでしょうが、レースウエアやランニング仲間との交流、レース開催地近くの名所を巡ったり、地元の名産品を味わったりするのも楽しみとなりますよ。もちろん、シリアスに自己の記録向上を楽しまれるのもよいでしょう。

徳本 秋の楽しみかたとしては景色のいいレースを選んで走るというのもいいですね。東京マラソンのように、いつもは走れない公道のような特別な場所を走るという楽しみを上げる方々もいます。
中村先生がいわれるように、レースに参加すると、いろんな人と知り合えますし、知り合った方から走り方の指導を受けたりすることがありますから、自分がレース参加で進歩していくことを楽しめますよ。

中村 いろんな所で仲間ができて、広がっていくのがいい。レースごとに会う友人と再会し、食事する楽しみとかも生まれてくる。仲間と飲む楽しみのために走っている人もいるしね(笑)。

駿河台大学駅伝部を監督する徳本氏
駿河台大学駅伝部を監督する徳本氏

マラソンレースを目指す人たちにメッセージをお願いします

徳本  重要なことは何かが起きてからではなく、起きる前に対処して欲しい。つまり予防を大切に考えて欲しいということです。今日お話ししているようなことを知識として覚え、事前に対処しておけば、もっと楽しいランニングライフが送れると思います。もちろん完走や、よりよい記録にも繋がります。

中村  皆さんそれぞれに目的があってレースを目指されるのでしょう。でも、マラソンは健康にいいことは間違いないですがカラダへの悪影響もあることを理解し、それに対して準備をして臨んで欲しい。ぜひ、個性豊かな各地のレースに参加し、ランナー同士のコミュニケーションを持って、大会を楽しんでください。レースに参加するほど、人生が面白く活発になると思います。

中村 集

医学博士 中村 集

集クリニック院長。1980年、東邦大学医学部卒業後、同大橋病院第3外科、同佐倉病院勤務後、一宮温泉病院(山梨県)にて外科診療、訪問診療などの地域医療、回復期リハビリテーション医療に従事。2008年より杉並区で集クリニック開設。日本体育協会公認スポーツドクター。日本消化器病学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。各地のマラソン大会で医療活動を援助するNPO法人日本医師ジョガーズ連盟(JMJA)会員。

徳本一善

徳本一善

駿河台大学駅伝部監督・(株)モンテローザ所属

法政大学時代から,大学陸上界を代表する選手として活躍。2003年、2004年、日本選手権男子5000m連覇、2007年東京マラソンで初マラソン5位入賞。2012年駿河台大学駅伝部監督に就任。選手権指導者として多方面で活躍している。

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