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三浦雄一郎さんエベレスト登頂!チームドクター・インタビュー



2013年5月23日、冒険家の三浦雄一郎さんは史上最高齢の80歳で3度目のエベレスト(標高8,848m)登頂に成功しました。
三浦さんの偉業を多くの専門家がサポートしましたが、教えて!「かくれ脱水」委員会の大城和恵先生もチームドクターとして今回の遠征に同行。脱水予防の側面から、三浦さんの登頂をアシストされました。
そのときの詳しい様子と登山時の水分補給の重要性について、大城先生に改めて語って頂きました。

三浦さんの遠征に同行なさった経緯を教えてください。

「三浦さんは70歳と75歳のときにエベレストに登頂されていますが、その業績を過信せず、今回は80歳という年齢を踏まえて入念な準備をなさいました。その一つが過去2回にはなかったチームドクターの同行です。

私は国際山岳医の資格を持ち、三浦さんの持病がある循環器の専門医でもあることから、今回の遠征をコーディネイトしている方からお声をかけて頂きました。不整脈を含めた体調の評価を目的で、12年秋、三浦さんたちはヒマラヤ山脈のロブジェ(標高6,145m)に遠征されていますが、そのときから同行して体調管理のお手伝いをしています。今回の遠征ではおよそ2か月間ご一緒し、三浦さんたちが山頂にアタックするまでの間、ずっと標高6,500m付近に設置されたキャンプ2(C2)で待機していました」

脱水を防ぐために、三浦さんにはどんなアドバイスをしましたか?

「通常の登山と同じく、30分に1回の水分補給をお願いしました。ヒマラヤのような高所では酸素が極端に少なくなるため、呼吸数が増えて呼気から失われる水分がそれだけ増えてきます。さらに、動くためにエネルギーを燃やすときにも多くの水分を消費しますから、30分おきに水分を摂っても多すぎることはありません。ヒマラヤは寒いところというイメージが強いのですが、標高6,500mを超える高所では紫外線が平地より強烈で、昼間は暑くなって汗をいっぱいかきますから、脱水に注意しないといけないのです。

そして酸素が薄い高所では『夜間利尿』という特殊な現象が起こります。夜間はおよそ2時間ごとにトイレに起きて、一晩で2,000ml近くの水分を失うケースもあるのです。呼吸が増えるとより多くの酸素を取り込みますが、同時により多くの二酸化炭素を吐き出します。この二酸化炭素は体内で重炭酸イオンとバランスをとっているため、二酸化炭素が減った分、この重炭酸イオンを排泄するために排尿が活発になるのです。この分を補うために、トイレに起きるたびに水分を摂取してもらいました。ちなみにベースキャンプ5,300m以上での水分補給には、周囲の氷河や雪を温めて溶かして使うこともあります」

登頂後に三浦さんは極度の脱水に陥ったそうですが、その理由は?

「C2までは同行していたので、時計を見ながら『30分経ちましたから、水分補給してください』と声をかけていました。三浦さんたちはC2からC3、C3’、C4、C5という4つのキャンプを経て、5日間かけてエベレストの頂上に立ちましたが、この間は命綱と酸素マスクを装着して行動しています。水分補給をするには酸素マスクを外さないといけませんし、同じ命綱の前後には他の登山隊もいます。酸素の薄い氷壁や雪上で、アイゼンを履いて命綱につながりながら30分おきに立ち止まって水分補給をすることは非常に大変な作業で時間を要し、時にはリスクを伴い、前後の隊にも影響を与えます。適切に水分補給ができる環境や状況ではなかったと思います」

脱水に対処するために、どんなアドバイスをなさいましたか?

「山頂からすぐ下のC5に戻ってきたとき、ともに山頂に立った息子さんの三浦豪太さんから電話があり、『お父さんがふらふらして、5分歩いたら休憩しないといけない状況です』と知らせてくれました。詳しい状況を確認すると、高山病の症状や心臓発作ではなさそうでしたし、水分も食事もほとんど摂れていないとわかったので、脱水状態で水分とカロリーが不足していると判断しました。

そこでまずは経口補水液を2,000ml摂ってくださいと指示しました。万一に備えて経口補水液はつねに携行してもらっていたのです。三浦さんは病院も医者も苦手らしいのですが(笑)、こういうときは素直にドクターの指示に従ってくださる方です。極限の状況下ではなかなかできないことですが、すぐに経口補水液を1,500mlほど飲み、食事をして危機を脱しました。

しかし蓄積した脱水はそれだけでは完全に回復しないので、酸素が薄くて体力が奪われるC5に長く留まることなく、頑張って速やかにその下のC4まで下り続けました。通常の倍以上の時間をかけて三浦さんはC4からC2まで下りてきました。 循環器に持病がある三浦さんがC2まで不整脈もなく、ずっと調子が良かったのは水分をちゃんと摂っていたことが大きな要因です。それまでの水分補給による体調管理の貯金がエベレスト登頂を可能にした理由の一つだと思います。

私自身、エベレストは入山料も高いし、それまで積極的に登ろうとは考えていませんした。でも、今回高度順応(順化)で7,100mまで登ったので、ここまで来たら次は山頂に立ってみたいと思うようになりました」

エベレストは世界最高峰ですが、日本の最高峰といえば富士山です。世界遺産に新たに登録されて訪れる人も増えそうですが、富士登山における脱水予防のポイントを教えてください。

「富士山でもエベレストと同じで、登山中は喉が渇いていなくても30分ごとに水分を摂ることが基本。登山を始める前に500ml以上飲み、あとは30分ごとに200mlくらい飲んでください。富士山は山小屋が多いので、水がなくなったら途中でいくらでも買えます。

夏の富士登山の問題点は登山者が多く、トイレが混むこと。トイレの行列に並ぶのがイヤだからと水分補給を控える方も多いのですが、呼吸数が増えて汗もたくさんかくので、水分補給を怠ると脱水になりやすくなります。夏は医師が交替で救助所につめており、私も富士山や剣岳の救護所で診療しますが、「高山病かもしれない」とやってくる登山者のほとんどは高山病ではなく脱水症なのです。

山でのかくれ脱水の簡単な発見法は、排尿の頻度をチェックすること。排尿が3〜4時間なかったら、かくれ脱水を疑うべきです。30分おきにきちんと水分を摂っていても、それ以上に汗をかけば脱水になります。登山途中の水分補給はスポーツドリンクを水で薄めたものがよいですが、かくれ脱水になったら経口補水液で水分補給をしてください。

富士山では、山小屋などで十分な睡眠や休息を取らない『弾丸登山』が問題になっています。弾丸登山では脱水が起こりやすく危険ですから、余裕を持ったプランを立てて安全に登るようにしてください」


*高山のように極度な乾燥状況で登山のような激しい運動をすると、呼吸数が増えて吐く息から水蒸気として水分が大量に失われるため、脱水対策として多量の水分と塩分が必要になります。しかしスポーツドリンクをそのままの濃度で何リットルも補給すると、塩分が過剰になり、水分のみの補給では塩分が不足するため、大城先生は半分に薄めたスポーツドリンクの摂取を指導されています。