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特別対談:熊本地震における救助支援からみる 知っておきたい緊急時の脱水・その予防と対策

かくれ脱水ジャーナルは、熱中症などの病気につながる脱水に関する様々な問題を知り、それを分かりやすく解説して、一人でも多くの人の脱水リスクを軽減していくことを目的に編集しています。

今回は、甚大な被害となった熊本地震において、自身の実家も益城町で全壊という被害にあった、教えて!「かくれ脱水」委員会 靍 知光委員と、熊本地域の中核医療施設のひとつ済生会熊本病院で、救急医療現場の最前線に立たれた西徹副院長との対談を企画。西先生が直接ご体験された震災時の医療現場の事柄や、緊急時の医療現場や日常とは異なる状況での脱水リスクについて、語り合っていただきました。実は、お二人は県立熊本高校の同級生。靍委員も、地震発生当初から西先生と連絡をとりあい、さまざまな助力をしてきたそうです。その意味でも忌憚のない対談になっています。

いま、日本の各地で多くの災害が起こり、これからの個々人の危機管理の必要性がいわれています。この対談は、多くの人にとっていざというときの参考になる示唆にとんだ内容です。いまだけでなく、これからのための保存版となる対談をぜひご一読ください。 監修:教えて!「かくれ脱水」委員会 委員 雪の聖母会聖マリア病院 臨床・教育・研究本部長 靍 知光
お相手:社会福祉法人 済生会熊本病院副院長 脳卒中センター 脳神経外科部長
教育・研究部長 熊本大学・徳島大学臨床教授 西 徹
(2016年取材当時)

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知っておきたい緊急時の脱水・その予防と対策

その①災害時の病院では、何が起こっているのか?

靍 知光(以下、靍):本当にこの度は大変なご苦労をされましたね。前震そして本震が震度7、余震は二千回を超えるという・・・。まず、地震発生で、水道、ガス、電気などのライフライン、それに物流までが止まるという状況のなかで、何が病院で起こりましたか?

西 徹(以下、西):今回感じたのは、改めて病院機能に絶対に必要なのは強いインフラであるということ。またライフラインの補完設備と物資の補給、人の管理について、病院自体が普段から対応を考えておくことが大切であるということです。まずインフラですが、水の確保が第一。当院の場合は普段、水道と自前の井戸から、受水槽と高架水槽とで253トンの水を貯蔵しています。井戸水は、給食には使えないのですが、透析、トイレ、生活用水に使えるのです。しかし、今回、震災が起こると、すぐに水道が止まり、井戸水のふたつある受水槽のひとつはダメになり、もうひとつのも亀裂が入り、最悪時は90トンの井戸水の受水槽のみになりました。しかも、その受水槽にもひびが入って・・・。

:次から次へと、やはり予期せぬことが起こったのですね。

西:さらに揺れて、このヒビがピーッとなったらもううちはアウトだと。このときが一番危機的でした。やっぱり水がないと病院は何もできないので。

:震災時は、まさに病院も脱水になる?

西:その通りです。ただ、いくらか残っている水も電気がこないと水が高架水槽に上がらないから使えない。だから、この水を運ぶラインのどこが壊れても駄目なんです。今回痛感したのは、水の補給源として少なくとも二通りあって、それぞれを支えるタンク、配管、電気設備などのインフラが強くないと病院は水を失うことになるということですね。幸い、電気に関しては2時間の停電ですみました。その間は、非常用電源で対応しました。うちは非常用電源を2系統持っていて、重油で3日間動かす設備とガスでつくる設備があります。十分なようですが、もし、停電が長く継続して、ガスも来ない、重油も3日間補給が無い、となると電気を失い、同時に水も失うことになります。今回は、ガスが本震のその日には再開をしていましたのでなんとかなった。滅菌とかに対応できたんです。

:人についてはいかがですか?

西:済生会熊本病院は、全スタッフが震度5弱で自主参集と決めていました。身の安全を確保して、来られる人は来てくださいということ。当院は国際的な医療機能評価であるJoint Commission International(JCI)の認証を受けていますが、その中でも施設全体の災害への対応やBusiness Continuing Planの策定など厳しく求められます。その一貫として毎年数百人が参加する本格的な災害訓練もやっていますが、やっぱり今回は最初、混乱がありました。あるべきものが出てこないとかいうようなこともあったようです。

:未曾有の揺れでしたし、状況がどんどん変わるのですからね。

西:病院の場合、災害で増える仕事はいっぱいあって、それがどんな状況であっても患者さんを受け入れなければいけないわけです。ただ、そのときの状況に応じてできることとできないことがあるのですが、それは乗り越えて、できるだけ救急患者さん達を受け入れることにし、同時にがん患者など生命にかかわる外来患者さん達の治療もできる限り早期に再開しました。結局、外来日は1日も休みませんでした。重症救急患者さんについて言えば、今回ヘリの広域搬送がかなり有効に働いたと思います。救急外来受診者は最も多い日には1日で100台の救急車と200人以上を受け入れました。本震の日です。震源地の益城町に近い病院では500人ぐらい来ていたところもあるようです。

:それはすごい・・。

西:その後ずっと救急外来の受診者は、震災前よりも多い状態が続いています。集まって来た人を、一次トリアージ、二次トリアージとか都度配置して、新しいタスクが生じたらまた再配置をしてという、その繰り返し。とにかく受け入れる体制を取って、できる限り受け入れる。あとはこの病院が当初は避難所にもなりましたし、うちからDMAT(災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム)を出したりしました。

:スタッフは休み無しですね。

西:当初はこれからどうやってみんなで手分けをして、有効に働くかいうようなことをやりました。オンコールの医師も21時までは院内待機とか、初期研修医もこのときばかりは自主的にシフトを組んで休み無しに働いていました。頼もしかったですね。でも、スタッフにも休憩も取らせないといけないでしょう。今トリアージをしている医者が手術に入ったら、そこを誰が埋めるのかとか、これがやっぱり本部機能として人の管理というものがものすごく重要です。

:自治体の避難所に対しては、何かおこなわれましたか?

西:付近の小中学校の避難所に、当院の予防医療センターのスタッフ(医師、保健師、看護師)および、インフェクションコントロール(感染管理)のナース・技師が定期的に巡回しました。専門的な目で避難所を見せてもらってアドバイスをさせていただこうということです。僕も研修医を連れていってエコノミークラス症候群の予防の話をさせてもらったりとかしました。駐車場の車の中も覗いて回りました。当院近くの避難所は、ものすごく自治体の人たちがしっかりとしていて、トイレとかもきれいな状況でしたが、グラウンドは夜になると車でいっぱい・・・。

また、済生会グループからうちの病院の支援に来てくれた看護師さんに周りの病院に手伝いに行ってもらったり、うちに集まったものを周りの病院に配ったりもしました。これはなぜなのか、というと、結局うちがある程度機能が回りだしても、うちだけだと限界があり、患者さんがここに詰まっちゃうと駄目。地域で復興をし、地域に医療機能が戻っていかないと難しいのです。連休中は、ほんとに患者さんが動かなくてベッドが足りなくなるんじゃないかと思って心配をしたんですけど、周りの病院が結構転院を受けてくれて助かりました。

:少しずつ地域の連携も動き出したということですね。

西:そうです。普通連休中に転院調整とかはできない。このように地域連携が強いことが熊本の特徴かと思います。

:災害時は病院のスタッフ自体も被災者ですよね。

西:そうです。そこがやっぱり大変。子どもを連れて避難してきてそのまま忙しく働くナースもいましたし。でも、病院に限らなくて、たとえば自治体の職員も、自分も被災者なのに人のことをしなければいけない、プロですからね。

:今回の体験でとくに学ばれたことはありますか。

西:勉強したのは、地域全体で強くならなければいけないということと、必要な情報はタイムリーに出せば助けてもらえるし、何らかの役にも立つと思いました。それと、ほんとに壊れちゃいけない例えば水の貯水槽とかを、免震にしておかないと駄目なんじゃないかと思います。あとは、もう人の教育・訓練ですね、勝負は。いかに本部が早く立ち上がってうまく機能するかということだと痛感しています。

その②エコノミークラス症候群だけじゃない。災害時は脱水リスクが増えるという事実

更新日:2019/07/05

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