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おもに夜間に錯乱や幻視を起こしたり、不安や恐怖感、あるいは無感動等の症状をおこすことを「せん妄」といいます。せん妄の原因はさまざまですが、実際には感染症・脱水・便秘・薬剤(多剤併用など)が多いといわれています。つまり脱水も要因のひとつ。脱水で体内の水分と塩分などの電解質が不足したり、電解質濃度が薄くなったりすると、脳の機能にも影響が及びせん妄が起こりやすくなるのです。
せん妄の始まりを防ぐためにも、かくれ脱水の予防を怠らないようにしてください。
また、せん妄を起こすと水分補給を適切におこないにくくなるため、さらにせん妄が悪化するという「負のスパイラル」に陥り、せん妄も脱水状態も急速に深刻化します。ことに高齢者で認知機能が低下していると、せん妄を繰り返すことで認知機能がさらに下がり、認知症が進行する恐れもあります。これは、要介護者だけでなく、その周囲の介護者や家族の環境へも大きな負担を与えることにもなり、在宅介護の問題のひとつとされています。
感染症による下痢・嘔吐や、発熱による多量の発汗などによって、体から多くの塩分が失われているのに、水やお茶のように塩分を含まない飲み物だけで水分補給を行っていると、体の塩分が余計に薄まる「低張性脱水(低ナトリウム血症)」に陥ってしまい、脱水状態から回復できないことがあります。低張性脱水のサインも見逃さないようにしながら、経口補水液を用いて塩分も補給できるようにしてください。
「高齢者になると認知症が増えます。認知症の代表的な症状に物忘れがありますが、物忘れそのものでは本人も家族もそれほど困らないケースが大半。むしろ注意すべきはせん妄です。脱水時に水やお茶だけで水分を補ったために、低張性脱水を起こし、せん妄と脱水の負のスパイラルに陥り、重症化することはぜひ避けてください。認知症になったら、緩やかに認知機能の低下をするように導くのが理想。脱水によるせん妄や入院を繰り返すと、認知機能が一気に低下するハードランディングとなり、本人も周囲も生活の質(QOL)が低下します」
たかせクリニック 髙瀬義昌理事長
医療法人社団 至髙会 たかせクリニック理事長 医学博士
包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、民間病院小児科部長、民間病院院長などを経て、2004年東京都大田区に在宅を中心とした医院を開業。認知症などの画像解析、社会ソリューションを学ぶため東京医科大学茨城医療センターで週1回外来診療をおこなっている。特定公益増進法人 日米医学医療交流財団 常務理事、学校法人国際医療福祉大学 メディカルスーパーバイザー、医療法人社団プラタナス 用賀アーバンクリニック・松原アーバンクリニック 顧問、ITヘルスケア学会 常任理事、杉浦地域医療振興財団 理事など。著書に、『医療を変えるのは誰か?—複雑系で解く21世紀の医療』(はる書房刊)、『ぜんそくなんかふきとばせ!』『おねしょまじんをやっつけろ!』(佼成出版社刊)、『ブレイブのぜんそくってなんだろう』(つくば総合研究所刊)ほか。
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