熱中症と脱水症に専門家が発信する正しい情報を!隠れ脱水JOURNAL

View58,061

その後もWHOは、臨床試験などの結果によって経口補水液の組成に改良を加え、現在はナトリウムやブドウ糖の濃度を当初より低くした組成を2002年に公表しています。現在でも開発途上国の成人と小児のコレラ患者の治療への使用が推奨されています。一方、コレラの発生頻度の低い先進各国では、WHOの経口補水液よりもナトリウム濃度が低い組成となっています。

上記の経口補水療法の研究経緯を踏まえ、先進各国の組成を参考にした大塚製薬工場のOS-1が日本版経口補水液として2001年に開発されました。最近では、日本救急医学会や小児救急医学会など、信頼できる学会がOS-1の活用を推奨しています。

*ESPGHAN(European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition)
*山口規容子:小児科診療,1994;57(4):788-792より作成

患者さんにも医療従事者にもWin-Winで優しい。いま知っておくべき生活と生命の防衛、最先端

日本では、国民皆保険制度の充実もあり、国内のほぼ全域で点滴治療が受けられます。そのために点滴が一番という風潮が医師にも患者側にも形成されてしまったようです。しかし、海外で急速に普及した経口補水療法が最も立ち遅れた国となってしまいました。

近年、気候変動や都市環境の変化などから年々増加する傾向にある熱中症、また、毎年のように起こるノロウイルスなどの急性胃腸炎やインフルエンザの流行、季節を問わず起こる災害時に避難所などで問題となっているエコノミー症候群や感染性胃腸炎など、脱水症のリスクは、年々増加しています。

さらに将来、風邪薬など薬局で買える薬は健康保険から外される(病院では診てくれない)など、セルフ・メディケーション(自己健康管理)の重要性は増していきます。軽い病気は病院に頼らず、常に自己健康管理を意識しなければならない時代が、日本にもやって来ました。

これから日本で生活していくには、病院へ行く前に(災害時など病院が機能しない場合もあります)、個人が家庭やそれぞれが所属する組織で、脱水症に対する対処の知識を持ち、実践することが重要です。

経口補水療法=ORTは、変化しつつある時代の中で、自分自身の生活と生命の防衛のために、どうしても知っておくべき大切な知識の一つであり、実践するべき方法なのです。

(救急医療 第43巻第7号 2019 谷口英喜 熱中症対策における経口補水療法のエビデンスと活用法)

雪の聖母会聖マリア病院 臨床・教育・研究本部長

靍 知光(つる ともみつ)

現在、日本外科学会 専門医・指導医、日本小児外科学会 専門医・指導医、日本静脈経腸栄養学会 認定医・指導医。他に日本外科代謝栄養学会評議員、日本腹部救急医学会評議員・編集委員、日本小児救急医学会評議員・ガイドライン委員、日本外科感染症学会評議員、日本機能水学会理事などを務める。専門(研究)分野は、小児・新生児外科、周術期代謝栄養学、経口補水療法(ORT)の臨床応用、小児胸腹部外傷の治療。著書に『新臨床外科学-小児悪性腫瘍(共著)』(医学書院)、『小児救急のストラテジー(共著)』(へるす出版)、『経腸栄養バイブル-小児(共著)』(日本医事新報社)など

重症でない場合は、病院に点滴しに行くよりも自宅で経口補水療法を開始する方が良いって知ってました?

更新日:2020/06/01

こんな記事もおすすめ!